川崎市平和館
インタビュー

公開日:2019/11/29 | 更新日:2021/03/21
神奈川県
市営博物館
歴史資料館

あらゆる非平和を知ることで
平和の大切さに気づく

「平和学」の考え方を元に作られた施設で、日本における戦争の資料展示や戦時中の川崎の様子にとどまらず、貧困や差別などあらゆる非平和を扱っている点が特徴です。なぜそのような施設になったのか、どのように見せ方を変えていったのかなどを伺いました。

  • Date:2019.11.22 13:00~
    Interviewee:大坪様(人権・男女共同参画室担当部長、川崎平和館 館長)
    Interviewer:木原(フィールドアーカイヴ 代表)

質問1:この施設ができたきっかけ、なぜここに建てられたのかを教えてください

大坪館長
この一帯に、戦前戦中は「東京航空計器」という、航空機の計測器を作ったり機関銃の照準器を作ったりしていた工場があったんですね。そこが終戦後米軍に接収されまして、米陸軍印刷局っていうところになったんです。ここは米軍が例えば宣伝ビラを印刷してベトナムにまいたりとか、そういったことをしていたんですね。そして1975年(昭和50年)に日本に返還されました。

その後、1982(昭和57年)に核兵器廃絶平和都市宣言を川崎市がしまして、その翌年にはこの場所を平和に関する公園にしようということで中原平和公園になりました。そのような経緯があって、1992年(平成4年)この場所に川崎市平和館が開館したというわけです。

木原
川崎市や日本の戦争体験の展示だけでなく、もっと世界規模の幅広い内容になったのはどうしてですか?

大坪館長
世界中にある平和に関する資料館、博物館のうち、1/4が日本にあるそうです。平和に関する施設には「地域が非平和だった頃の歴史資料的な展示」と「平和そのものについて考える展示」の大きく2つに分かれます。

どちらが良い悪いというのではないのですが、川崎市平和館は、川崎と戦争、日本と戦争について語り継いでいくというのも大事な役割ととらえつつ、さらに「平和そのものについて考える展示」をコンセプトにしています。これは、戦争や紛争のみならず、貧困や差別、環境破壊などを非平和ととらえ、平和を維持する条件などを研究する「平和学」の考え方を元にしています。

木原
「平和学」というのをもう少し詳しく教えてください。

大坪館長
平和学というのは、「平和」をみんなで目指そうよといったときに、では「平和ではない状態」って何なのっていうと、だいたい普通は「戦争がないこと」っていうんですけど、じゃあ戦争がなければ「平和」なんでしょうか?っていうところからスタートしています。

例えば世界では戦争がなくても、毎日飢餓や病気でたくさんの人々が死んでいく状況がある。
それってはたして「平和な状態」ですか?っていうところから、戦争に限らず人権だったり差別だったり貧困だったり地域の紛争だったりあるいは環境問題まで含めてそういった「平和ではない状態」をとらえて考えていこうっていうのが平和学です。

木原
この館ができる際に、こういった形になるように先導するような方がどなたかいらしたのでしょうか。

大坪館長
27年前のことになりますが、当時、平和館準備委員会という学識経験者を集めた会で答申をもらって作っているので、その時のご意見でいただいたものですね。

その際の考え方として、地域の戦争だけとらえるのではなくて、平和というものをもっと広くとらえて市民にうったえていく施設を作るべきだという考え方があって、それでこの平和館はこういうコンセプトで作ったということです。

木原
すごいボリュームですよね。2時間じゃ全然、正直きかないくらいです。映像も多くは「川崎市平和館 制作」となっていて、それぞれにタッチパネルのコーナーがあったりして、相当な熱量で作られているなとびっくりしました。

大坪館長
見学時間は1時間くらいとしていますが、すごく真面目に見ると1日くらいはかかりますね。

質問2:常設展示に際し、他の記念館にはないユニークな品や見せ方などは何ですか

大坪館長
平和館パンフレットの8番に「武力紛争とメディア」というコーナーがあります。

マスメディアと武力紛争の関わりということで、ベトナム戦争では戦場カメラマンが国の宣伝とは違う視点で一般の人が被害を受けている写真を見せたりとか、その一方で人種差別から始まった紛争が実は地域のコミュニティ放送みたいなところがあおってしまった、というようなことがあります。
つまり、役割を果たしつつ、差別を扇動してしまうこともあって、メディアの役割ってすごく大きいよねっていう展示をしています。

このコーナーは平和関係施設の展示としては珍しいのかなと思います。

木原
その他に何かユニークな試みはありますか。

大坪館長
あとはワークショップ、出前授業というのがあります。

今日たまたまいないんですけれども、普段、専門調査員っていう学芸員的な役割をしている人がいまして、その人の専門が平和学なのです。その人が、中学高校大学の社会科の授業に呼ばれたり、出前授業という形で出かけていって、生徒さん達に平和について考えていただくワークショップをやっています。
そこで例えば人権についてとか、テーマを設定してワークショップ形式で考えていただいて、それを成果物にしたものをこちらの企画展に展示するというようなこともやっております。

質問3:開館当初の見せ方から変化した部分はありますか、もしあればなぜ変化させましたか

大坪館長
平成25年度に展示更新、リニューアルしまして、それまでは映像資料がすごく多かったんです。
映像資料って、じっくり見て考えるっていうよりは視覚にうったえてきて、爆弾が落ちたり機関銃を撃ったりっていうような刺激は強いんですけれども、すっと通り過ぎてしまうところがあって、で、今日ご覧いただいたような展示パネル中心に切り替えたということですね。

木原
無料のイヤホンガイドもとても良かったんですけれども。

大坪館長
はい、あれも平成25年度に整備をしたものです。

木原
ガイド番号がわからなくて、押しながら探す感じの場所がいくつかありました笑

大坪館長
そうですね、あれはちょっと慣れないとわかりにくいところはあるかもしれません。

質問4:続けていくにあたって苦労されていること、お困りごとがもしあれば教えてください

大坪館長
やっぱり、来館者をね。今日も少なかったと思うんですけれども、もう少し見に来ていただけるように主に広報になるのかなと思うのですけれどもね、そういったところをもう少し頑張っていかなきゃいけないかなって思います。

木原
私も入ってみるまでこういう内容だったのかって知らなかったぐらいです。

大坪館長
そうですね、アンケートを見ると、ちょっと怖いような印象をもたれちゃうみたいで。

木原
ああ!確かに怖かったです。
入ってすぐにある「川崎大空襲」という映画を上映する部屋。入るのもボタンを押すのもかなり勇気いりました。そこから先は、内容は決して明るくはないのですが、部屋は明るいので怖くはなかったです。

大坪館長
なるほど。それは聞いてよかったです。

質問5:その他、ご来場の方々に何かお伝えしたいことはありますか

大坪館長
川崎と戦争、日本と戦争っていう展示があるんですけれども、そういったものに限らず、平和ではない状態っていうのが世界を見わたしてみるとたくさんあるので、そういったことを展示しているので、平和について皆さんと一緒にあらためて考える機会にしていただけるとありがたいといったところが想いです。

見学した際の感想

木原
先日伺った世田谷区立平和資料館が川崎市平和館と提携していて、ちょうど企画展で川崎大空襲の様子を展示していたこともあり、「川崎市平和館」という名前から、勝手に川崎市に関する戦争関係の展示資料館だと思っていたので、平和学を軸とした一段高い視点からの壮大な内容や展示の見せ方に、目からウロコでした。

平和ってなんだろう?の1番から始まり、徐々に重いテーマに突入してゆき、簡単に解決しそうになくて暗い気持ちになりかけましたが、最後の10番で平和への解決策が取り上げられていて、前向きな気持ちになって階段を降りることができました。

リニューアル時に追加されたと思われる各コーナーの文章、特に「コラム」が非常に読みごたえがあり、結局読みきれなかったので、別冊で売り出してくれないものかと思いました。

あと、2階入口すぐの「川崎大空襲」の映画上映や当時の暮らしを再現する部屋も怖かったのですが、1階の防空壕体験コーナー、一人で入るのには勇気いりすぎます!
上映作品「ひとつの地球・ふたつの世界」を観ても感じましたが、こういった怖い空間が日常、という世界が世の中にはあるのだと痛感できる貴重な施設です。